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セロニアス・モンク

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急に雨が降ってきたので、近くのカフェに駆け込んだ。
一杯のアメリカンコーヒーを注文して、席についた。
コーヒーは薄めの方が、包まれている感じがして好き。

座ってから気が付いたが、
カップル、いや、どちらかがカップルになりたいと思っている様子の男女が隣にいた。
2人の側にはギターケースと、折り目があちこちについた譜面が机の上に置かれていた。

「ボーカルっていうもんはな。」
少し大きめの声で話す男。
女は、うんうんとうなづきながら、水滴のついたアイスコーヒーにさされたストローをかんでいた。
「美味しいおでんの大根が食べたいと思って、大根を育てようと思ったら、まずは雑草抜きからなんや。そんなもんやで。」
男は、女にそんな話をしていた。
なかなかいいことを言うなあと思いながら、ふと、机上の譜面をのぞき見た。

青い色のスコア。

スタンダードジャズハンドブックだ。

気づいた瞬間、記憶が過去に旅していた。
この”青本”という言葉をよく聞いたのは、いつ頃だったろうか。

こないだ安西安丸さんの展示で購入した書籍のなかに、一節のエッセイが載っていた。
「ハーレムの夜」という題名で、ニューヨークの「ヴィレッジ・ヴァンガード」に初めて訪れた時に、
憧れのセロニアスモンクに出会った時の話だった。
「セロニアス・ヒムセルフ」を生で聴いた時の感動が、活き活きと描かれているものだった。

そういえば、
同じような折り目だらけの青本を、私は過去にも見た事がある。
一度ではない。
何回も、そしてその音も。

今その音は、どんな譜面を追っているんだろう。

どうしても、セロニアス・モンクが聴きたくなった。


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