「ね」ぇねぇ

おじいさん、おしえて。
世の中に、変わらないものってあるの?

ーないんだよ。サリー。
夏に鳴いていた蝉が、秋にはいなくなってしまうように。コップが割れて壊れてしまうように。
去年から来年になるように、移り変わっていくんだよ。

ねぇねぇ
おじいさん、おしえて。
私も変わっちゃうの? 私じゃなくなっちゃうの?

ーそうだよ。
サリーはサリーのままだけど、どんどん形はかわっていくんだよ。
赤ちゃんのときに着ていた服が着れなくなるように。
植物が種から花が咲いて、散ってしまうようにね。

ねぇねぇ
おじいさん、おしえて。
じゃあいつかおじいさんも、変わってしまうの?

ーそうだね。
おじいさんもだいぶ変わってきて、いまこんな風貌さ。
もうこんなに白髪だらけだから、サリーと一緒にいられる時間もあと少しかもしれないね。

いやだ。
おじいさん、おしえて。
わたし、おじいさんがいなくなったら嫌だ。もう会えなくなっちゃうの?

ーああ、それだけはNOだよ。
おじいさんがいなくなっても、サリーへの想いはそのままさ。愛っていうものは、形がなくても心に生き続けるんだよ。
唯一変わらないものだよ。
だから大丈夫。いつでも会える。
ああ、サリー、愛してるよ。

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「ぬ」ぬるいコーヒー

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ぬるいコーヒーほど飲めないものはない。
淹れたてのものとは、何か違う味がする。

もちろんコーヒーだって、初めからぬるいわけじゃない。
笑顔の店員さんには「ホットコーヒーをください」と注文しているし。

いやぁ。
しかし私は、ぬるいコーヒーを飲む機会が多い。
読みかけの雑誌を読んでいるうちに、
思いついたコトバをメモに書きとめているうちに、
好きな音楽を聴きながらぼんやりと、映画の女優を演じているうちに、
大好きな友達と取り留めのない人生話・恋愛話を繰り広げているうちに。

そんなとき、いつもそこにある。
幸せで大切な時間と引き換えに、コーヒーはぬるくなっていくのね。

そうだ忘れていた、ケーキセットを頼んだのだった。
こんなにおしゃれしてお皿に乗っているケーキが台無しね。
ごめんねといいながら、またコップに手を伸ばす。

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「に」にがい

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にがいコーヒーを飲みたい気分。

にかいの窓際の席にいる。

にじが見える、そういえばこの店に入る前に雨が振ってたかしら。

にんげんの記憶なんて本当にアテにならないものね。

にしに沈む太陽が、少しまぶしい。

ニット帽が似合うあの子とは、さっきお別れしたばかり。

あぁ、
にがいコーヒーが今日はうまい。

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「な」ながい道

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道は、どこまでも続く。
山あり谷ありのくねくね道を歩いていく途中で、たくさんの旅人たちに出合う。
その都度現れる曲がり角を、無関心で曲がれるときもあるし、不安に駆られ曲がれないときもある。
ただ、歩いていくことを決めるのは、自分なのだ。
突き当たりだったら、引き返せばいいさ。
すみっこに宝箱があるかどうか、ちゃんとチェックだけはしてね。
右でも左でも、心の選ぶほうに素直に進めばいいさ。
長い道が待っていることには変わりないのだから。

泣いたり、笑ったり、時にはおこったりしながら、
たくさん道草していこう。
道中でもらうお土産、想い出や人との出会いへの感謝だけは忘れないで。
まだ長い旅の途中なんだ。
わたしの道は、どこまでも続く。

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「と」透明

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透明なグラスに、注がれる、さまざまな液体。
黄色。
緑。
紫。
黒。

何色もの髪の毛の集団から生まれる。
期待。
思惑。
理想。
欲求。

街中を走り回る、車のエンジン音。
少女の手から生まれる、美しいピアノの音色。
夏を告げる、夜中じゅう鳴き続ける虫の声。
レコードから流れる、デジタル音。
鳴り響く、不協和音。
私の中に、こだまする。

全てはじまりは透明なのに、なぜ私たちは、透明ではないのか。
にごった物体を排除して。
澄んだその目をゆがませた笑顔で、こちらを見つめて。
鏡に映ったその姿を、無色透明に変えて。

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