「ね」ぇねぇ

おじいさん、おしえて。
世の中に、変わらないものってあるの?

ーないんだよ。サリー。
夏に鳴いていた蝉が、秋にはいなくなってしまうように。コップが割れて壊れてしまうように。
去年から来年になるように、移り変わっていくんだよ。

ねぇねぇ
おじいさん、おしえて。
私も変わっちゃうの? 私じゃなくなっちゃうの?

ーそうだよ。
サリーはサリーのままだけど、どんどん形はかわっていくんだよ。
赤ちゃんのときに着ていた服が着れなくなるように。
植物が種から花が咲いて、散ってしまうようにね。

ねぇねぇ
おじいさん、おしえて。
じゃあいつかおじいさんも、変わってしまうの?

ーそうだね。
おじいさんもだいぶ変わってきて、いまこんな風貌さ。
もうこんなに白髪だらけだから、サリーと一緒にいられる時間もあと少しかもしれないね。

いやだ。
おじいさん、おしえて。
わたし、おじいさんがいなくなったら嫌だ。もう会えなくなっちゃうの?

ーああ、それだけはNOだよ。
おじいさんがいなくなっても、サリーへの想いはそのままさ。愛っていうものは、形がなくても心に生き続けるんだよ。
唯一変わらないものだよ。
だから大丈夫。いつでも会える。
ああ、サリー、愛してるよ。

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知らない道を走ってたって。
もしかしたら、いつもと同じ道だったって。

どこに行こうかな。
そんな力があるんだね。

こないだ立ち読みした難しげな本に書いてあったっけな。
何をするかじゃなくて、誰とするかなんだって。
まさに納得なんじゃないかって思ったりするんだけど、
違うかな?

お腹すいてきちゃった。
ねぇ、いいお天気だね。


「瞬間映画」
毎日の暮らしの中で、切り抜いた瞬間を
ことばと映像と音楽で味付けします。

日常の中に隠れている、非現実。
現実のなかに、こころが感じられる瞬間。

彩りを忘れずに生きていきたいのです。

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太古の昔から、
人間は焚火をしていた。

火を見つめながら、人間は何を思っていたのだろう。

そのときのわたしは、
感情だけが浮いていた。
そして、それは火の粉と一緒に暗闇の中にひとつひとつ、溶けていく。

泣いていたような気がする。
悲しいからではなくて、あったかくもあった。

温度と灯りと音。
いい訳やことばは何にも存在しない。
ただ、許されている気がした。

「火を見ている」。
ただの人間に戻った自分と、静かな時間だけがその間に流れていた。


「瞬間映画」
毎日の暮らしの中で、切り抜いた瞬間を
ことばと映像と音楽で味付けします。

日常の中に隠れている、非現実。
現実のなかに、こころが感じられる瞬間。

彩りを忘れずに生きていきたいのです。

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まっすぐ前を見つめたままのわたしに、
そのベース音は、突然届いた。

飾りのない、
まるで覚えたてのような音符たちが、
その風景になじむ。

アイスクリームが溶けた。

いつかどこかの昔に置いてきたレコードのような。
わたしにだけ聴こえた、
忘れかけていた響き。

左耳が、あつい。


「瞬間映画」
毎日の暮らしの中で、切り抜いた瞬間を
ことばと映像と音楽で味付けします。

日常の中に隠れている、非現実。
現実のなかに、こころが感じられる瞬間。

彩りを忘れずに生きていきたいのです。

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「ぬ」ぬるいコーヒー

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ぬるいコーヒーほど飲めないものはない。
淹れたてのものとは、何か違う味がする。

もちろんコーヒーだって、初めからぬるいわけじゃない。
笑顔の店員さんには「ホットコーヒーをください」と注文しているし。

いやぁ。
しかし私は、ぬるいコーヒーを飲む機会が多い。
読みかけの雑誌を読んでいるうちに、
思いついたコトバをメモに書きとめているうちに、
好きな音楽を聴きながらぼんやりと、映画の女優を演じているうちに、
大好きな友達と取り留めのない人生話・恋愛話を繰り広げているうちに。

そんなとき、いつもそこにある。
幸せで大切な時間と引き換えに、コーヒーはぬるくなっていくのね。

そうだ忘れていた、ケーキセットを頼んだのだった。
こんなにおしゃれしてお皿に乗っているケーキが台無しね。
ごめんねといいながら、またコップに手を伸ばす。

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